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物流倉庫はさまざまな課題を抱えています。主な課題は次のとおりです。
一般的に、物流倉庫では人為的ミスが発生しやすいと考えられています。
人力に頼る業務が多いためです。よくある人為的ミスとして「オーダーとは異なる商品をピッキングしてしまう」「数量を誤ってピッキングしてしまう」があげられます。
あるいは「定められた場所に商品がない」「発注ミスで在庫が不足している」などの人為的ミスも起こりえます。チャンスロスや顧客満足度の低下につながるため注意が必要です。
慢性的な人材不足も、物流倉庫が抱える深刻な課題です。
株式会社帝国データバンクが発表している「人手不足に対する企業の動向調査(2024年1月)」によると、人材が不足している物流業(道路貨物運送業)の割合は72.0%です。2024年4月以降は時間外労働に上限規制が適用されるため、さらに労働力不足に陥る恐れがあります(2024年問題)。
参考に、令和6年3月時点における関連する職業の有効求人倍率を紹介します。
【有効求人倍率】
「輸送・機械運転従事者」と「自動車運転従事者」が物流倉庫で働く人材だけを指すわけではありませんが、関連する職業が人材不足に陥っていることはわかります。
倉庫業務の属人化も、多くの物流倉庫が抱えている課題といえるでしょう。
特定の従業員に質問しないと業務の進め方がわからない、特定の従業員が不在になると業務が滞るなどのトラブルが生じるためです。
このような状態だと、作業を効率よく進められません。業務が属人化する主な理由は、倉庫業務に商品に関する知識、在庫に関する知識、ロケーションに関する知識、取引先に関する知識などが欠かせないためです。
一定の経験を積まないと、業務を適切に行えません。倉庫業務は属人化しやすいといえるでしょう。何かしらの対策が必要です。
いつの間にか管理方法が複雑化してしまうことも、多くの物流倉庫が抱えている課題です。主な原因として、企業の成長に伴う取扱品目の増加と表計算ソフトによる管理があげられます。
表計算ソフトは、物流倉庫における大量のデータ管理には適していません。
原則として手入力が必要になるため、表計算ソフトで管理していると人為的なミスが発生やすくなります。リアルタイムの情報を反映しにくい点もポイントです。倉庫業務を妨げる原因になりえます。
棚卸作業にかかる手間と時間も、物流倉庫の課題といえるでしょう。
棚卸は、データ上の在庫数と実際の在庫数に誤りがないか確認する作業です。重要な作業のひとつですが、現場に大きな負担がかかります。何がいくつあるかなどを確認しなければならないためです。
また、データ上の数量と実際の数量にずれが生じると、その原因を突き止めて修正しなければなりません。棚卸作業の効率化も、実現したい取り組みのひとつと考えられます。
複数の物流倉庫を運用している場合は、マニュアルの違いで連携が難しくなることもあります。各物流倉庫が、業務効率を向上させるため独自マニュアルを作成しているケースは少なくありません。
一見すると問題のない取り組みに思えますが、固有のルールが増えすぎると、他の物流倉庫と連携するときに確認や調整などを必要とすることがあります。複数の物流倉庫を運用している場合はマニュアルやルールの確認が必要です。
物流倉庫が抱えている課題を解決するため、注目を集めているのが倉庫DXです。倉庫DXは、デジタル技術を活用して倉庫業務の効率性や生産性を飛躍的に高め、競合他社に対する優位性を獲得する取り組みといえるでしょう。
具体的には、AIとビッグデータを活用したオペレーションの自動化、IoT、ロボティクス技術を活用した業務の効率化、自動化などが考えられます。倉庫DXに取り組むことで、人為的ミスの防止、慢性的な人材不足の解消、また、倉庫業務の属人化の防止ができる可能性があります。何かしらの課題を抱えている物流倉庫事業者が、検討したい取り組みといえるでしょう。
倉庫DXには、さまざまなメリットがあります。主なメリットは以下のとおりです。
倉庫DXにより、作業効率は向上する傾向があります。アナログ管理をデジタル管理に移行できるためです。たとえば、商品管理にRFIDタグを導入すると、手入力が不要になるうえ、遠方から一括読み取りが可能になるため、作業スピードと正確性が向上します。あるいは、倉庫管理システムを導入すると、携帯端末経由でロケーション情報を取得できるため、経験を問わずピッキング作業を適切に行えるようになります。これらのメリットにより、生産性を高められるでしょう。
人件費を削減できる可能性がある点も倉庫DXの魅力です。前述の通り、倉庫DXに取り組むと業務効率や生産性は向上する傾向があります。
これらが向上すると、配置する人員を減らしたり、残業を減らすことが可能です。あるいは、ロボティクス技術などを活用して、倉庫業務の一部を自動化することもできます。たとえば、ピッキングロボットを導入してピッキング作業を自動化するなどが考えられます。倉庫作業の自動化によっても、人件費を削減できる可能性があります。
倉庫管理システムなどを導入すると、在庫情報を始めとする情報をリアルタイムで共有できます。入力した情報が、システム上に即時反映されるためです。
たとえば、ハンディターミナルで読み取った情報がシステム上に即時反映されるなどが考えられます。したがって、実際の在庫と帳簿上の在庫の一時的なずれで発注数量を誤ってしまうなどのトラブルを防げます。在庫管理の精度を高め利益を最大化できるでしょう。
倉庫DXにより、倉庫業務のデジタル化、自動化を進められます。たとえば、ハンディスキャナーを導入すれば、検品作業、棚卸作業などで手入力が不要になります。書き間違い、読み間違いを始めとするミスをなくせるでしょう。
同様に、ピッキング作業の自動化で、品番を見誤って異なる商品を取り出すなどのミスも防げます。物流倉庫の課題のひとつである人為的ミスを防げる点も倉庫DXの魅力です。
倉庫DXには、作業の属人化を解消する効果も期待できます。これまで経験知とされてきたスキルや知識などをシステムが提供してくれるためです。
たとえば、倉庫管理システムを導入すると、経験が不足している従業員でも一定水準以上の業務を行えるようになります。したがって、倉庫管理システムをもとにルールを定めて、作業の属人化を解消することが可能です。
倉庫DXに取り組むと、特定の従業員に頼らず倉庫業務を行えるようになります。
AIによる情報分析が行える点も倉庫DXの魅力です。
具体的な取り組みはさまざまですが、倉庫の条件を踏まえて作業動線を短縮するロケーションを提案する、商品情報、混雑状況、指定時間などを踏まえて効率的な配車を提案するなどの活用が行われています。
AIを用いた業務の最適化によっても、作業効率や生産性を高められる可能性があります。
ここからは、倉庫DXに取り組む際に注意したいポイントを解説します。
基本的に、倉庫DXに取り組むと倉庫内の安全性は高まります。センサー技術を活用して倉庫内のトラブルを防いだり、従業員が関わる危険な作業を減らしたりできるためです。
ただし、施策の導入にあたっては、安全性に注意しなければなりません。何かしらの抜けや漏れがあると、想定通りに機能しないためです。
たとえば、センサー技術を活用した安全管理システムが適切に稼働せず大きな事故が起こるなどが考えられます。専門家と相談しながら、施策を慎重に導入していくことが大切です。
倉庫DXを推進する前に、ビジョンを明確にしておくことも欠かせません。倉庫DXは課題を解決するための手段です。ビジョンが定まっていないと、効果的な施策を選択、導入できません。
たとえば「コストをかけて導入したシステムが業務にマッチしなかった」なども考えられます。実現したいことを明確にしておけば、このようなトラブルは防げるでしょう。
何かしらのシステムを導入する場合は、既存システムとの連携について確認しておく必要があります。連携できないと、導入するシステムを有効に活用できない恐れがあるためです。また、既存システムとの連携に新たなシステムを必要とするケースや外部との連携が必要になるケースもあります。ベンダーはもちろん、社内のIT部門などと相談しつつ、導入を進めていくことが大切です。
倉庫DXの推進には、一定のコストがかかります。投資効率の評価も欠かせません。投資効率は一般的にROIで評価します。ROIの計算式は次のとおりです。
ROI=利益÷投資額×100
ROIが高いほど、投資効率はよいと考えられます。検討している施策のROIが低い場合は、他の施策に切り替えるなどの対策が必要になることもあります。
ここでは、物流倉庫の課題と倉庫DXについて解説しました。
物流倉庫が直面しやすい主な課題として、人為的ミスの発生、慢性的な人材不足、業務の属人化があげられます。業務効率や生産性の低下などを招くため注意が必要です。これらの課題は倉庫DXで解決できる可能性があります。
倉庫DXは、デジタル技術を活用して業務を改善し、新たな価値を生み出す取り組みです。さまざまな選択肢があるため、導入にあたってはビジョンを明確にしておくことが大切です。この記事を参考に、倉庫DXを進めてみてはいかがでしょうか。